「物語」です。
文字が生まれる何千年も前から、人類は焚き火を囲んで物語っていました。
狩りの自慢話、死んだ仲間の思い出、星がなぜ光るのかの説明。
考古学が掘り出せるのは骨と石器だけですが、その骨の持ち主たちが夜ごと何をしていたかは、世界中の無文字社会が教えてくれます。
人間は、放っておくと物語る生き物なんです。
この講座は、その「物語」という発明の四千年史です。
物語はひまつぶしではありません。
もともとは、生き延びるための道具でした。
「あの沢で水を飲んだ者が三人死んだ」という情報は、忘れられます。
でも「あの沢には牙をもつ主がいて、飲んだ者を引きずり込む」という物語は、孫の代まで残る。
危険の記憶を、感情ごとパッケージして運ぶ技術。
それが物語の最初の仕事でした。