子どものころ、「物を粗末にするとばちが当たる」と言われたことはありませんか。
食べ物を残すと目がつぶれる。
人形を捨てると祟られる。
針を折ったら供養する。
理屈で考えれば、物は物です。
捨てても何も起きない。
でも、長年使った物をゴミ袋に入れる瞬間、なぜか小さく「ごめん」と思ってしまう——あの感覚の源流が、今日の主役です。
室町時代に描かれた『付喪神記』という絵巻があります。
冒頭に、こんな趣旨の説明が出てきます。
器物は百年を経ると精霊を得て、人の心を惑わす。これを付喪神という。
物語はこうです。
年末の煤払いで、古い道具たちが路地に捨てられる。
捨てられた道具たちは怒ります。
「長年ご奉公してきたのに、この仕打ちか」。
彼らは節分の夜に妖怪となり、都で暴れ回る——。
古い唐傘が一本足で跳ねる傘化け、古琵琶や古琴の妖怪、鍋や釜のお化け。
百鬼夜行絵巻に描かれる妖怪の行列には、こうした道具の妖怪がぞろぞろ登場します。
妖怪の行進というより、捨てられたものたちのデモ行進です。