1964年、ある短命の無名学術誌に、6ページの論文が載りました。
著者は、スイスの巨大加速器研究所CERNで働く、36歳のエンジニア兼理論家。
論文のテーマは、当時の物理学界では「キャリアの自殺行為」とすら囁かれた分野、量子力学の基礎論でした。
掲載誌はまもなく廃刊。
論文も、数年間はほぼ誰にも読まれませんでした。
その論文は現在、こう評されています。
「科学史上、もっとも深遠な発見のひとつ」。
著者の名は、ジョン・スチュワート・ベル。
アインシュタインとボーアが決着をつけられず、30年間「趣味の哲学」として棚上げされていたあの二択を、実験で判定可能な形に変えてしまった男です。
今回は、量子力学史でぼくがいちばん好きな逆転劇。
無名のエンジニアが、二大巨頭の宿題を解いた話です。