いまから約千年前。
ダンテ『神曲』の三百年前、セルバンテス『ドン・キホーテ』の六百年前。
心理描写を備えた全五十四帖の大長編小説が、日本語で書かれました。
『源氏物語』です。
書いたのは、宮仕えの一人の女性、紫式部。
「世界最古の長編小説」の座については学問的な議論もありますが、心理の綾まで描き込んだ長編としての完成度で、源氏物語が人類最初期の金字塔であることは世界の文学史が認めています。
今回は、この事件の大きさをちゃんと味わう回です。
千年前の世界を見渡すと、文学の公用語はどこも「権威の言語」でした。
ヨーロッパはラテン語、東アジアは漢文。
そして日本の宮廷でも、男性貴族は公式文書を漢文で書いていました。
ところが日本には、前回見た万葉仮名から生まれたばかりの新しい道具があった。
ひらがなです。