20世紀の初め、小説家たちはあることに気づき始めました。
人間の頭の中は、きちんとした文章では動いていない、と。
意識の実際は、連想が飛び、記憶が割り込み、目の前の看板と十年前の後悔が同居する、途切れない流れです。
ならば小説も、その流れのまま書けないか。
この無謀な実験に踏み込んだ二人が、ジョイスとウルフでした。
どちらも選んだ舞台は、英雄の大遠征ではなく、都市のありふれた一日です。
ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』は、設定だけ聞くと冗談のようです。
1904年6月16日。
アイルランドのダブリンで、広告取りの中年男レオポルド・ブルームが、朝起きて、街を歩き回り、夜中に帰宅する。
それだけです。
たった一日、大事件なし。
それが千ページ級の大作になっています。