最初に取り上げるのは、20世紀半ばに書かれた二冊の「予言書」です。
一冊は、世界の意味のなさと、それでも生きる人間を書いた。
もう一冊は、言葉と事実が権力に書き換えられる社会を書いた。
カミュ『異邦人』と、オーウェル『1984年』。
どちらも、書かれてから半世紀以上たった今のほうが、リアルに読める本です。
まず、20世紀文学でいちばん有名な書き出しのひとつから。
母が死んだ日を、覚えていない。
いや、正確には、こだわっていない。
この主人公ムルソーの「感じ方のずれ」が、物語の全部を駆動します。
彼は母の葬儀で泣かず、翌日には海水浴と映画を楽しみ、恋人に愛しているかと聞かれれば、たぶん愛していないと思う、と答える。
うそがつけないんです。
悲しんでいるふりも、愛しているふりも。