1951年9月10日、ヴェネチア国際映画祭。
金獅子賞(グランプリ)の受賞作が読み上げられます。
『羅生門』。
監督、黒澤明。
会場の日本人関係者よりも、日本の映画会社のほうが驚きました。
というのも大映の社長は当初この映画を「わけがわからん」と評し、海外出品も乗り気ではなかったからです。
イタリア人の映画紹介者が惚れ込んで出品を働きかけ、当の黒澤は受賞を知らされるまで出品されたことすら知らなかった。
この一夜で、世界の映画地図が書き換わります。
「日本に、とんでもない映画があるらしい」
敗戦国の映画が、世界の第一線に躍り出た瞬間でした。
『羅生門』の原作は芥川龍之介の「藪の中」。
一つの殺人事件を、盗賊、殺された侍の妻、そして巫女の口を借りた侍の霊が、それぞれ語ります。
全員の証言が、食い違う。
しかも全員、自分が「立派に見える」ようにではなく、自分が「罪を背負う」ようにすら語る。
真実はどれなのか。
映画は最後まで、答えを言いません。