第5部は、ぼくらが生きている「いま」に繋がる映画史です。
出発点は1975年の夏。
1匹のサメが、映画というビジネスを永久に変えました。
スティーヴン・スピルバーグ、当時28歳。
『ジョーズ』の撮影は、悪夢でした。
海上撮影は予定を大幅に超過し、製作費は膨張。
そして何より、主役であるサメの機械仕掛けの模型(愛称ブルース)が、海水でしょっちゅう故障して動かない。
若き監督は、追い詰められて決断します。
「サメが映らないなら、映さないで怖がらせるしかない」
樽が海面を走る。
水中からの視点で、泳ぐ足だけが見える。
そしてジョン・ウィリアムズの、あの2音。
サメ本体は、映画の後半までほとんど登場しません。
ヒッチコックの爆弾理論(第19回)を、故障が強制的に実践させたわけです。
この講座でもう何度目かの「制約はスタイルになる」。
故障したサメは、結果として映画史上もっとも怖いサメになりました。