電車の中で、スーツ姿の会社員がマンガ雑誌を読んでいる。
いまの日本では見慣れた光景ですが、世界的にはずっと珍しいものでした。
そして日本でも、この光景が当たり前になったのは1970年代以降です。
今回は「大人が人前で堂々とマンガを読む国」がどう作られたかの話。
キーワードは青年誌です。
構造はもう三度目なので、すぐわかると思います。
劇画を生んだのは貸本屋で育った働く十代でした(第6回)。
青年誌を生んだのは、その次の段階——手塚マンガと劇画で育った世代が、大学生になり、社会人になっても読むのをやめなかったことです。
出版社はこの「卒業しない読者」に向けて、新しい雑誌を次々に創刊します。
1967年の『漫画アクション』、1968年の『ビッグコミック』と『ヤングコミック』、少し遅れて『ビッグコミックオリジナル』。
載るのは、子ども向けの熱血でも、『ガロ』の前衛でもない。
仕事、犯罪、酒、恋愛、人生のほろ苦さ。
大人の生活と地続きの物語です。
この青年誌という棚が定着したことで、日本のマンガは決定的な強みを手に入れます。
読者が人生のどの段階でも、読むものがあるという状態です。
少年誌から青年誌へ、さらに壮年向けへ。
読者を一生逃さない生態系は、世界のコミック市場を見渡しても日本にしかありませんでした。