「あきらめたらそこで試合終了ですよ」。
マンガのセリフが、そのまま国語になった例は多くありません。
安西先生のこの一言は、バスケットボールを知らない人でも知っている。
今回は第4部の幕開けとして、平成のジャンプ黄金期の頂点に立つ一冊、『SLAM DUNK』の話をします。
井上雄彦『SLAM DUNK』は1990年、週刊少年ジャンプで連載開始。
赤い髪の不良・桜木花道が、好きになった女の子の一言をきっかけにバスケットボール部に入る。
動機は不純、才能は未知数。
そこから湘北高校バスケ部の、全国への挑戦が始まります。
連載当時、バスケットボールは日本ではマイナー競技でした。
「バスケものは当たらない」が業界の定説だったといわれます。
実際、連載開始時のアンケート順位は安泰ではなく、ギャグ寄りの立ち上がりから試合中心へ、読者の反応を見ながら重心を移していった経緯が知られています。
第9回でやった探索システムが、ここでも作品を鍛えたわけです。
それを覆した要因は、第8回でやったスポ根の方程式の、見事な現代化でした。
梶原一騎的な、貧しさと怨念で駆動する根性ではない。
桜木は「素人がうまくなっていく喜び」で駆動します。
庶民シュート、基礎練習、リバウンド。
一つ覚えるたびに読者も一緒にバスケがわかっていく。
努力が陰惨ではなく、爽快なんです。
この作品の連載中、日本の中高生のバスケ部入部者は激増しました。
マンガが現実の競技人口を動かした、教科書的な事例です。
『SLAM DUNK』を歴史に刻んだのは、人気だけではありません。
1996年の最終局面、山王工業戦の表現です。