「続きが気になって眠れない」。
マンガの感想として、これ以上の褒め言葉はありません。
そして平成の日本で、この状態をもっとも大量に、もっとも計画的に生産した作家が浦沢直樹です。
今回は、サスペンスという建築物の設計術の話をします。
浦沢直樹のキャリアは二段構えです。
80年代後半、『YAWARA!』で柔道ヒロインものを大ヒットさせ、まず王道のヒットメーカーとして頂点に立ちます。
天才柔道少女と頑固な祖父の物語は、連載と同時代のオリンピックの熱とも重なって国民的な人気になりました。
転機は1994年、『ビッグコミックオリジナル』で始まった『MONSTER』です。
舞台は冷戦末期のドイツ。
日本人の天才外科医テンマは、頭を撃たれた少年を政治的圧力に逆らって救う。
数年後、その少年ヨハンが、怪物のような連続殺人者となって彼の前に現れる——。
自分が救った命が、多くの命を奪っていく。
医療ドラマの善意の前提(第11回のブラック・ジャックを思い出してください)を根底からひっくり返す設定で、浦沢は青年マンガのサスペンスを一段上の水準へ引き上げました。
続く『20世紀少年』(1999)では、少年時代の秘密基地の「よげんの書」どおりに世界の破滅が進行していく物語を、昭和の記憶とカルト教団の恐怖を織り込みながら展開します。
そして『PLUTO』(2003)では、手塚治虫『鉄腕アトム』の名エピソード「地上最大のロボット」を、殺人事件の捜査ミステリーとして翻案。
神様の原作に真っ向から挑んだこの作品は、手塚文化圏の公認を受けた上での、世代を超えた果たし合いでした。