江戸時代の記録には、奇妙な事件がいくつも残っています。
ある日、子どもが忽然と消える。
村総出で探しても見つからない。
数日後、あるいは数年後、その子がひょっこり戻ってくる。
どこにいたのか聞くと、「鼻の高い大男に連れられて、山々を飛び回っていた」と語る——。
こうした失踪は「神隠し」と呼ばれ、その犯人としてもっとも多く名指しされたのが、天狗です。
天狗のイメージははっきりしています。
赤ら顔に高い鼻、山伏の装束、一本歯の下駄、羽団扇。
深い山に住み、空を飛び、人知を超えた力を持つ。
注目してほしいのは、その服装です。
天狗は山伏の姿をしています。
山伏とは、山にこもって修行する修験道の行者のこと。
つまり天狗のモデルには、実際に山を駆け回っていた「山の宗教者」の姿が入っています。