安産祈願は、なぜ「戌の日」なのでしょうか。
妊娠五か月目の戌の日に、腹帯を巻いて安産を祈る「帯祝い」。
今も多くの妊婦さんが神社で祈祷を受けます。
戌の日の理由は、犬のお産が軽く、多産だから。
犬にあやかりたい、という素朴な願いです。
今日から第4部。
人の一生に寄り添う民俗を、いのちの入り口から順に見ていきます。
最初は出産——かつて、家族と共同体の総力戦だった営みの話です。
かつての日本には、産屋(うぶや)という建物がありました。
出産のときだけ使う小屋で、妊婦は臨月になるとそこへ移り、母屋から離れてお産をしました。
地域によっては、火も母屋と別にする「別火」の慣習まであった。
なぜ隔離するのか。
表向きの説明は「産の穢れ」です。
出血を伴うお産は穢れとされ、母屋や共同体から切り離された——。
ただ、民俗学者たちはこの「穢れ」を、単純な差別と見ませんでした。
産屋は、産婦が家事労働から完全に切り離される場所でもあったからです。
日常(ケ)の外に置かれるということは、日常の義務からも外れるということ。
産屋には世話役の女性がつき、産婦は「何もしなくていい存在」として扱われました。