丑三つ時の神社。
白装束の女が、頭にろうそくを立て、木に藁人形を打ちつける——。
丑の刻参り。
日本でもっとも有名な呪いの作法です。
ホラー映画や漫画で何度も描かれてきたので、細部まで思い浮かぶ人が多いはずです。
でも、考えたことはあるでしょうか。
なぜ、こんな手の込んだ作法が生まれ、語り継がれてきたのか。
今日は呪いの民俗です。
最初に約束しておきます。
この回は呪いのやり方の講座ではありません。
「人はなぜ呪うのか」を考える回です。
そして先に結論を言うと、呪いとは、ほかに手段のない者の、最後の裁判所でした。
丑の刻参りの原型のひとつは、能の「鉄輪(かなわ)」や、剣の巻に語られる宇治の橋姫の伝説です。
夫に裏切られた女が、生きながら鬼になることを貴船の神に祈り、頭に鉄輪をいただき、その脚にろうそくを灯して宇治川に浸かる——。
注目してほしいのは、彼女が「呪う側」に回った経緯です。
裏切られた。
奪われた。
しかし、当時の女性に、夫の裏切りを訴え出る法廷はありません。
実力で復讐する腕力もない。
公式の救済手段が何ひとつない。
その行き止まりで、彼女は人間をやめてでも神仏に直訴する道を選びます。