1979年、日本中の小学生が、本気で怯えた妖怪がいます。
口裂け女です。
マスクをした女が「わたし、きれい?」と聞いてくる。
「きれい」と答えるとマスクを外し、耳まで裂けた口を見せて「これでも?」——。
この噂は数か月で全国の学校を駆け巡り、集団下校や、パトカーの巡回まで引き起こしました。
テレビもネットもSNSも使わず、子どもの口コミだけで、です。
妖怪は、明治の科学で滅びたはずでした。
でも滅びていなかった。
山と川から、都市へ引っ越していたんです。
今日は、現代の妖怪たちの話をします。
口裂け女の同期には、トイレの花子さん、人面犬、テケテケなど、そうそうたる顔ぶれがいます。
彼らの生息地に注目してください。
学校のトイレ、夜の通学路、高速道路。
ぜんぶ、都市の生活の中の「境界」です。
学校のトイレは、にぎやかな校舎の中の、ひとりになる薄暗い場所。
夜の通学路は、塾通いが生んだ「子どもが夜に出歩く」という新しい時間帯。
高速道路は、生活圏から切り離された匿名の空間。
かつて妖怪が辻と峠と逢魔時に湧いたのと同じ理屈で、現代の妖怪は都市の新しい境界に湧きました。
環境が変われば、不安の形が変わる。
不安の形が変われば、妖怪の形が変わる。
妖怪の生成エンジンそのものは、一度も止まっていないんです。