1957年、プリンストン大学に、一本の博士論文が提出されました。
著者は26歳の大学院生、ヒュー・エヴェレット3世。
論文の主張を一行にすると、こうなります。
「波動関数の収縮は、存在しない」。
そこから導かれる帰結が、とんでもないものでした。
測定のたびに、宇宙は枝分かれする。
猫が生きている世界と、死んでいる世界は、両方とも実在する。
あなたのコピーは、無数の分岐した世界で、それぞれの人生を生きている。
現代では「多世界解釈」と呼ばれ、世界中の物理学者が真剣に支持を表明する有力解釈のひとつです。
物理学者への解釈アンケートでも、主要な選択肢の常連です。
支持率ではまだ王者コペンハーゲンに届きません(2013年の専門家調査ではコペンハーゲン42%に対し多世界18%)。
それでも、かつて完全に黙殺された理論が2位グループに定着したこと自体、途方もない逆転劇なんです。
でも1957年、この論文は物理学界から、ほぼ完全に黙殺されました。
そして著者は物理学を去り、二度と戻りませんでした。