前回の日本は、世界を「産む」創世でした。
今回のギリシャは、ひとことで言えば「奪い合う」創世です。
紀元前700年ごろ、詩人ヘシオドスが『神統記』という長編詩に神々の系譜をまとめました。
その冒頭によれば、最初にあったのはカオス。
日本語で「混沌」と訳されますが、原義は「ぱっくり開いた裂け目」に近い。
何もない口を開けた空虚から、大地の女神ガイアが、奈落のタルタロスが、そして愛欲の神エロスが生まれます。
注目はエロスです。
世界の部品より先に、「結びつける力」が最初期メンバーとして生まれている。
このあと神々は結婚と出産を繰り返して世界を埋めていくので、その駆動力を最初に置いたわけです。
理屈が通っている。
神話は行き当たりばったりの空想ではなく、始まりから終わりまで筋が通るように設計された説明体系なんだということが、この配置ひとつでわかります。
ガイアは天空の神ウラノスを産み、ウラノスとの間に多くの子をもうけます。
ところがウラノスは、生まれてくる子どもたちを嫌い、大地の奥に押し込めてしまう。
苦しんだガイアは末子クロノスに鎌を渡し、クロノスは父ウラノスに切りかかって王座を奪います。
権力を握ったクロノスに、今度は予言が下ります。
お前もまた、わが子に王座を奪われる。
恐れたクロノスは、生まれてくる子を片っ端から呑み込みました。
妻レアは末子ゼウスだけを隠して育て、代わりに産着でくるんだ石を呑ませます。
成長したゼウスは父に呑まれた兄姉を吐き出させ、彼らを率いてクロノスら巨神族と十年戦った末に勝利。
ここにようやく、ゼウス体制のオリュンポスが成立します。