ゲームやファンタジーが好きな人なら、ユグドラシル、オーディン、ラグナロクといった言葉を一度は見ているはずです。
現代エンタメへの素材提供数なら世界最強クラス、北欧神話の始まりを読みます。
北欧神話の主な典拠は、13世紀にアイスランドで書き留められた「エッダ」と呼ばれる詩と散文の集成です。
ここでひとつ注意。
13世紀のアイスランドは、すでにキリスト教化されていました。
つまり北欧神話は、異教の神々を信じなくなった人々の手で記録された神話です。
記録者のフィルターがかかっている可能性を、学者たちは常に意識して読んでいます。
神話は「何が語られたか」と同じくらい「誰がいつ書き残したか」が大事——これは全部の神話に効く読み方です。
始まりの光景はこうです。
北に氷の国ニヴルヘイム、南に炎の国ムスペルヘイム。
そのあいだに、ギンヌンガガプという巨大な裂け目が口を開けている。
氷と炎が裂け目で出会い、溶けた滴から最初の生き物、霜の巨人ユミルが生まれました。
やがて神々の祖が現れ、その孫にあたるオーディンと二人の兄弟が、あろうことかユミルを殺します。
そして死体を裂け目のまんなかに運び、世界を作った。
肉は大地に、血は海に、骨は山に、歯と砕けた骨は岩と石に、頭蓋骨は天蓋に、脳は雲になりました。
世界の中心には巨大なトネリコの樹ユグドラシルがそびえ、その枝と根に、神々の国も人間の国(ミズガルズ)も死者の国も、九つの世界がぶら下がっています。
前回のギリシャは王座の奪い合いでしたが、北欧はさらに直接的です。
世界そのものが、殺害の産物。
ぼくらが立つ大地は誰かの肉で、見上げる空は誰かの頭蓋骨だという世界観です。