クイズから始めます。
日本でいちばん数が多い神社は、何神社でしょうか。
答えは、お稲荷さん。
稲荷神社です。
その数はおよそ3万社と言われ、これは全国のコンビニ大手一社分の店舗数に迫る規模です。
路地裏の小さな祠や、ビルの屋上、企業の敷地内まで数えれば、体感的にはもっと多い。
ところが、です。
この日本一のネットワークの主祭神ウカノミタマは、古事記と日本書紀に、ほんの数行しか登場しません。
古事記では、スサノオとカムオオイチヒメの間に生まれた神として名前が挙がるだけ。
日本書紀の一書では、イザナギとイザナミが飢えたときに生んだ子とされます。
「ウカ」は食べ物、とりわけ穀物を指す古語。
つまり名前の意味は「稲の霊」。
出番は少ないのに、名前が本質のすべてを語っている神です。
稲荷信仰の総本宮は、京都の伏見稲荷大社。
あの千本鳥居の山です。
創建は711年と伝わり、由緒にはこんな物語が残っています。
渡来系の豪族・秦氏の長者が、裕福にまかせて餅を的にして矢を射た。
すると餅は白い鳥に変わって飛び去り、山の峰に降りた。
そこに稲が生った。
長者は罰当たりを悔い、その峰に社を建てた——。
稲が生る、イネナリ、イナリ。
社名の由来譚です。
餅を粗末にした富者への戒めと、稲の霊の神聖さを、ひとつの短い物語に畳み込んでいます。