第2回を思い出してください。
黄泉から帰ったイザナギが禊をして、左目からアマテラス、右目からツクヨミ、鼻からスサノオが生まれました。
三貴子——日本神話でもっとも尊い三柱です。
アマテラスは最高神として物語の中心に立ち、スサノオは大暴れの末に英雄になった。
では月の神ツクヨミは何をしたか。
ほぼ、何も書かれていません。
古事記では、誕生の場面と「夜の食国を治めよ」と命じられる場面だけ。
あとは系譜にすら、ほとんど顔を出さない。
太陽と対をなすはずの月の神が、日本神話では徹底的に沈黙しています。
世界の神話では月の神はたいてい大物です。
ギリシャのセレネやアルテミス、メソポタミアの月神シンは都市の主神でした。
なぜ日本の月だけが、空白なのか。
今回はこの「書かれていないこと」を読む回です。
実はツクヨミには、日本書紀の一書にだけ、たった一つの事件が記録されています。