世界の神話をあちこち歩いてきましたが、今回の話は、その中でも飛び抜けて異様です。
北欧の神々は、自分たちがいつか必ず滅びることを知っています。
予言の巫女が、最高神オーディンに世界の始まりから終わりまでを語って聞かせる詩が残っている。
終末の名はラグナロク、「神々の運命」。
長い冬が三年続き、狼が太陽と月を呑み、死者の国の船が岸を離れ、炎の巨人が世界を焼く。
オーディンは巨大な狼フェンリルに呑まれて死ぬ。
雷神トールは大蛇ヨルムンガンドと相打ちになる。
神々の軍勢は、負けるとわかっている最終戦争へ、それでも出撃していく——。
創世の時点で終末の日程表が確定している神話は、世界的に見ても極めて珍しい。
ギリシャの神々は永遠に不死で、日本の神話に世界の終わりはそもそも出てきません。
なぜ北欧だけが、滅びを組み込んだのか。
この予言を聞いてしまった側、オーディンという神の造形がまた凄まじい。
オーディンは戦と死の神であると同時に、知恵に取り憑かれた神です。
知恵の泉の水を一口飲むために、自分の片目をえぐって差し出しました。
ルーン文字の秘密を得るためには、槍で己を貫き、世界樹ユグドラシルに九夜のあいだ首を吊って「自分自身への捧げ物」となった。
北欧神話の知恵は、常に身体の代償と引き換えです。
タダで手に入る知識はひとつもない。