1949年、アメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベルが一冊の本を出します。
『千の顔を持つ英雄』。
世界中の英雄神話を読み比べた彼の結論は、大胆でした。
英雄の物語は、世界にひとつしかない。
ギリシャの英雄も、ブッダの出家も、アーサー王も、イヌイットの語り部の物語も、表面の顔(千の顔)が違うだけで、骨格は同じ一つの物語(モノミス)だというのです。
骨格は大きく三幕。
出立——日常の世界に冒険への呼び声が届く。
主人公は一度は断るが、賢者に背中を押されて境界を越える。
試練——異界で仲間と敵に出会い、試練の道を進み、最大の危機で象徴的な死を経験し、宝を手にする。
帰還——手にした宝を持って日常世界へ戻り、共同体に恵みをもたらす。
前回ぼくらがチェックリストで取り出した文法を、キャンベルは一枚の円環の設計図にまとめ上げたわけです。
この学術書に、思わぬ読者がつきます。
映画監督のジョージ・ルーカスです。
脚本に行き詰まっていた彼はキャンベルの本に出会い、自分の作りたい物語の骨格がそこに全部書いてあることに衝撃を受けた。
そうして設計図に忠実に組み直された映画が、『スター・ウォーズ』です。
当てはめてみましょう。
辺境の星の退屈な日常に、姫からの救難信号という呼び声が届く。
少年は一度ためらうが、賢者オビ=ワンに導かれて境界を越える。
個性的な仲間、敵の要塞への潜入、師の死という最大の危機、そして帰還して共同体を救う——。
教科書どおり、完璧なモノミスです。
ルーカス自身が、キャンベルへの恩を公言しています。