体が大きく、無口で、動きもゆっくり。
同級生たちは、頭の回転まで遅いのだと思い込み、のろまな牛だとからかっていました。
見かねた級友が、講義の内容を親切に解説してやったことがあります。
ところが途中で難所にさしかかると、その「のろま」は静かに続きを引き取り、教師より鮮やかに説明してみせた。
師のアルベルトゥスは言ったと伝えられています。
「君たちはこの男を、もの言わぬ牛と呼ぶ。だが、いずれこの牛のうなり声が全世界に響きわたるだろう」。
牛の名は、トマス・アクィナス。
中世哲学の最高峰にして、「信仰」と「理性」という水と油を結婚させた巨人です。
トマスの人生は、出だしから型破りです。
彼は南イタリアの貴族の家に生まれました。
家の既定路線は、名門修道院に入れて、ゆくゆくは院長という「経営職」に就かせること。
当時の大修道院長は、領地を持つ立派な権力者です。