さて、「どんな味でしたか」。
……「苦い」「まあ普通」くらいの言葉で済ませませんでしたか。
では、もう一口。
今度は、最初に舌のどこに味が来たか。
香りは飲む前と後でどう変わったか。
温度の感じは。
飲み込んだ後に残るものは。
ほんの一口の経験の中に、普段は素通りしている細部が、これだけ詰まっています。
ぼくたちは経験を「生きて」はいるけれど、経験を「見て」はいない——。
この、いちばん身近なのにいちばん見過ごされている「経験そのもの」を、哲学の主戦場にした学派があります。
現象学。
二十世紀哲学の巨大な水源のひとつで、のちのハイデガーもサルトルも、ここから流れ出します。
創始者エトムント・フッサールは、もともと数学者でした。
変分法の研究で学位を取った、根っからの厳密さの人です。